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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)6846号 判決

原告 戸村勲

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 手塚一男

同 阿部正幸

被告 大洋航空株式会社

右代表者代表取締役 若林治男

右訴訟代理人弁護士 花岡隆治

同 齋藤晴太郎

同 向井孝次

同 沢田訓秀

同 山田忠男

被告 学校法人 日本航空学園

右代表者理事 梅澤義三

右訴訟代理人弁護士 清田嘉一

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告ら各自に対し、金一、九七九万五、一〇八円及びこれに対する昭和五四年四月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

原告戸村勲は亡戸村等(以下「等」という。)の父であり、同戸村美智子は等の母である。

2  事故に至る経緯

(一) 等は、昭和五三年四月、被告学校法人日本航空学園(以下「被告学園」という。)が経営する日本航空操縦大学校(以下「操縦大学校」という。)操縦科(二年制)に入学し、同校で事業用操縦士の資格を取得するための飛行訓練等の教育を受けていた。

(二) 操縦大学校は、昭和五三年度入学者(第三期生)から同校のカリキュラムの中に米国留学を組み入れ、第三期生は昭和五四年三月三〇日から約三か月間、米国の航空学校へ留学し飛行訓練を受けることになった(以下「本件留学」という。)。

(三) 等は、他の学生九名と共に、操縦大学校の教官で被告大洋航空株式会社(以下「被告大洋航空」という。)の取締役運行所長である島森彰に引率されて、本件留学に参加した。

(四) 等らは、昭和五四年三月三〇日から米国カリフォルニア州トランス所在のペニンスラ航空学校に、同年四月二三日から同州ホーソン所在のセキュリティー航空学校にそれぞれ入学し、飛行訓練を受けた。

3(一)  等は、昭和五四年四月二六日、他の学生である上野保(以下「上野」という。)、川畑輝生(以下「川畑」という。)及びセキュリティー航空学校教官ジャック・フランシス・カーベリー(以下「カーベリー」という。)と共にセスナ一七二型飛行機(以下「本件飛行機」という。)に搭乗し、ホーソン飛行場からベイカース・フィールド飛行場までを往復する飛行訓練を受けた。

(二) 右飛行機には、川畑が前部左側操縦席について操縦桿を握り、カーベリーがその右隣の席に、上野と等が後部座席にそれぞれ座り、同機は同日午後九時四三分、ベイカース・フィールド飛行場からホーソン飛行場に向けて出発した(以下「本件飛行」という。)。

(三) 川畑は、カーベリーの指示に従い、高度約四、五〇〇フィートで有視界飛行したが、離陸後約二〇分経過したころ、同機は視界の全くきかない雲の中に突入し、その直後旋回しつつカリフォルニア州レベック・バックホーンスプリングスにあるグレープヴァインピーク(標高四、八二五フィート)の山腹に衝突した(以下「本件事故」という。)。

(四) 本件事故により、等はまもなく事故現場で死亡した。

4  責任原因

(一) セキュリティ航空学校及びカーベリーの責任

ベイカース・フィールド飛行場からホーソン飛行場に向かう飛行経路上には高さが海抜五、〇〇〇フィートにも及ぶ山が散在し、カーベリーは、本件事故当時の天気予報により、右経路の海抜三、〇〇〇ないし五、〇〇〇フィートの上空では雲量が多いか又は全くの雲で、かつ、同日午後九時ころまで雷雲が北西の方向に移動すること及び右経路の海抜一万一、五〇〇フィートの上空には右のような有視界飛行に影響を及ぼすような気象状況は存在しないことを知っていたのであるから、このような場合、計器飛行証明を有しない学生に対し夜間有視界での飛行訓練を実施する教官としては、右山の高さ及び気象状況を考え、海抜三、〇〇〇ないし五、〇〇〇フィートの高度での飛行は避け、海抜一万一、五〇〇フィートの高度での飛行をするよう指示し、あるいは、川畑による操縦を中止させて自ら操縦することにより、本件飛行機が山に衝突することを未然に防止すべき注意義務があったのに、カーベリーは、前記飛行開始前に飲酒して正常な注意力及び判断力を欠いていたため、操縦にあたった川畑の予め提出した飛行計画が海抜一万一、五〇〇フィートの高度によるものであったにかかわらず、これを無視し、かえって海抜約四、五〇〇フィートの高度で飛行するよう指示し、かつ、川畑に操縦を続けさせた過失により本件事故を発生させた。

(二) 被告らの責任

被告らは、共同して操縦大学校の学生に対する飛行訓練を実施していた者であるところ、

(1) 被告らは、セキュリティー航空学校及びカーベリーをその事業のために使用し、同人らはその事業の執行として本件事故を惹起したものであるから、被告らはそれぞれ民法第七一五条により本件事故により等及び原告らに生じた損害を賠償する責任がある(使用者責任)。

(2) 被告らは、等の操縦大学校への入学により、同人に対する飛行訓練の実施に際し同人の生命等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っており、セキュリティー航空学校及びカーベリーは被告らから右義務の履行を委ねられた履行補助者であったところ、同人らは、(一)のとおり、右義務に違反して本件事故を惹起した。

また、飛行訓練を実施するにあたっては、飛行中に遭遇する様々な事態に迅速、的確な対応をするために、訓練を受ける学生と教官との間で円滑な意思連絡ができる状況にあることが不可欠であるところ、本件事故の際、本件飛行機に搭乗した学生はいずれも英語がほとんど話せず、カーベリーも日本語を話せなかったのであるから、原告らとしては、十分な会話能力を持った通訳を同乗させるか、又は飛行計画の作成あるいは操縦を教官自身にさせることにより、不慮の事故の発生を未然に防止すべき義務があったのに、これらの措置を採らなかった過失により、本件飛行中に飛行計画と異なる前記高度を指示された川畑が、その高度で飛行することの危険性に気付いていながら、その旨を教官に的確に伝えることができず、本件事故を発生させた。

従って、被告らは民法四一五条により本件事故により等及び原告らに生じた損害を賠償する責任がある(安全配慮義務違反)。

5  無過失責任の特約

被告らは、昭和五四年三月二一日、原告らに対し、等が本件留学中の事故により死亡した場合には、被告らの過失の有無にかかわらず、金三、〇〇〇万円を支払う旨を約した。

6  損害

(一) 逸失利益 金三、〇八一万〇、四三八円

等(昭和三五年一月二〇日生)は、本件事故当時一九歳の学生であったから、就労可能年数は四八年であり、右期間を通じ昭和五五年賃金センサス第一巻第一表による全産業男子労働者平均の現金給与年額金三四〇万八、八〇〇円の収入を得ていたはずであり、控除すべき生活費として五割を、更にライプニッツ方式により中間利息を控除して、その逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、金三、〇八一万〇、四三八円となる。

3,408,800円×0.5×18.077=30,810,438円

(二) 慰籍料 金一、五〇〇円

原告らは、次男である等のパイロットとしての将来を楽しみにしていたところ、突然の事故で同人を失った悲しみは筆舌に尽くしがたい。また、等が操縦大学校を卒業した後は、事業用操縦士の資格を得て、高額の収入を得ることが高度の蓋然性をもって期待されていたから慰籍料の算定にあたっては右事情も考慮されるべきである。よって、慰藉料の額は、原告それぞれにつき金七五〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用 金三五九万九、一一〇円

被告らは、右(一)、(二)の損害金の内金三、五九九万一一〇六円を任意に弁済しないので、原告らは原告ら訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任した。その費用は、金三五九万九、一一〇円が相当である。

7  よって、原告らは、それぞれ、被告ら各自に対し、不法行為もしくは債務不履行による損害賠償請求権に基づき、損害金の内金一、九七九万五、一〇八円及びこれに対する不法行為の日である昭和五四年四月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告大洋航空)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2のうち、島森が被告大洋航空の取締役運行所長であったとの点は否認し、その余の事実は認める。

3 同3(一)、(二)の事実はいずれも認める。同(三)の事実のうち、本件飛行機が海抜約四、五〇〇フィートの高度で飛行していたことは認め、その余の事実は否認する。本件飛行機は不時着したものである。同(四)の事実のうち、本件事故後まもなく等が死亡したことは認めるが、本件事故と右死亡との間の因果関係の存在は否認する。等は、本件事故後、本件飛行機から脱出してから移動するうち、現場付近の崖から滑落したことにより致命傷を負ったものである。

4 同4の事実は否認する。

本件飛行開始前に飛行予定経路の天候をレーダーによる天気図及び三〇〇ミリバール、五〇〇ミリバールの高層天気図により調べたところ、本件事故現場付近上空の天候は飛行訓練に支障のある状況ではなかった。本件飛行機は、有視界飛行による飛行中、本件事故現場付近に至って霧又は雲に遭遇したため、カーベリーが川畑と操縦を交替してこれを回避しようとして旋回し始めたところ、本件事故現場に不時着した。

操従大学校は、セキュリティー航空学校に飛行訓練を請け負わせた。その結果、等らは同校の監督、指導下に飛行訓練を受けていたものであり、被告らは、その訓練内容について関与はできなかったのであるから、セキュリティー航空学校及びカーベリーは被告らの被用者もしくは履行補助者ではない。

5 同5の事実は否認する。

6 同6の事実は否認する。

(被告学園)

1 請求原因2の事実は認める。

2 その余の請求原因事実に対する認否は、被告大洋航空に同じ。

三  抗弁(被告両名)

1  原告が、セキュリティー航空学校及びカーベリーを本件留学中の飛行訓練のために使用したについては、次の理由があったから被告らには責任がない。

(一) セキュリティー航空学校は、米国航空局の認可を得た学校であり、その設備、航空機、教官、飛行管理システム等は同航空局の検査に合格していた。

(二) 本件留学の目的は、事業用操縦士技能証明申請資格取得に必要な機長時間の取得にあったところ、被告らが当初留学先としたペニンスラ航空学校では等らに対し計器飛行以外の飛行につき機長時間を認めなかったため、その他の飛行についても機長時間を認めていたセキュリティー航空学校に留学先を変更する必要があった。

(三) カーベリーは、本件事故当時年齢六〇歳、飛行時間一万時間以上(うち機長時間五、〇〇〇時間以上)で、ノースウエスト航空株式会社の訓練教官を定年退職するまで勤めた経歴を有し、事業用操縦士、教育証明、計器飛行証明の有資格者であった。

2  過失相殺

仮に本件事故と等の死亡との間に因果関係があるとしても、等は、本件事故後、本件飛行機から脱出してから移動するうち、現場付近の崖から滑落したことにより死亡したものであるから、右死亡の結果発生については、同人にも過失がある。

3  免責合意

被告らと等の法定代理人の立場を兼ねる原告らは、昭和五四年三月二一日、等の本件留学中の事故による死亡に伴う損害については、セキュリティー航空学校と米国コンパス保険会社との間で締結された保険金額限度額一〇万米国ドルの航空損害保険の保険金のみによって填補し、被告らに対し請求しない旨の合意をした。

4  免除

原告らは、昭和五六年四月二四日、セキュリティー航空学校及びカーベリーの相続人から本件不法行為に基づく損害の賠償として、金五万米国ドルの支払を受け、同人らとの間でその余の損害賠償金の支払を免除し、かつ、同人らに対する将来の転償請求については原告らがその責任を負担する旨の合意をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実について、(一)のうちセキュリティー航空学校が米国航空局の認可を受けた訓練校であることは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は否認する。

4  同4の事実は認める。

五  再抗弁(抗弁3に対し)

原告らは、抗弁3の合意の際、等の本件留学中の事故による死亡に伴う損害については、被告学園が保険契約者として締結する航空損害保険契約が存在しないにもかかわらず、これが存在し、かつ右損害につき、右保険金のみによって填補し、被告らに対し請求しない、との趣旨であると錯誤し、その錯誤に基づいて右合意をした。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  同2の事実は、原告と被告学園との間では争いがない。

《証拠省略》によれば、同2のうち、島森が被告大洋航空の取締役運行所長であったことが認められ、その余の事実については、原告と被告大洋航空との間で争いがない。

3  同3のうち、(一)、(二)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

同3(三)の事実のうち、本件飛行機が高度海抜約四、五〇〇フィートで有視界飛行していたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、川畑は、本件飛行開始後高度約四、五〇〇フィートの高度に達した後、カーベリーの指示に従いその高度での水平飛行に移ったが、飛行開始後約二〇分程して薄い雲に入り、次いで厚い雲の中に突入し、その直後カリフォルニア州レベック・バックホーンスプリングスにあるグレープヴァインピーク(標高四、八二五フィート)の山腹に衝突したことが認められる。

同3(四)の事実のうち、本件事故後まもなく、等が墜落現場付近で死亡したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、本件事故は、本件飛行機の主尾翼及びエンジン部分が破損する程に激しかったこと、本件事故によりカーベリーは死亡し、上野も腰椎骨折、小腸損傷の傷害を負ったこと、等も足を負傷して意識を失っていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実に照らすと、たとえ被告主張のように等が本件事故現場から移動しようとして崖から滑落したことが致命傷であったとしても、本件事故は夜間の山中で起こったのであるから本件事故と等の死亡との間の因果関係を否定することはできない。

4  請求原因4(責任原因)について

(一)  《証拠省略》によれば、ベイカース・フィールド飛行場からホーソン飛行場に向かう飛行経路上には高さが海抜四、五〇〇フィート以上に及ぶ山が散在していたこと、カーベリーは、本件事故当時の天気予報により、右経路の海抜三、〇〇〇ないし五、〇〇〇フィートの上空では雲量が多いかまたは全くの曇で、かつ、本件事故当日は午後九時まで雷雲が北西の方向に移動すること及び右経路の海抜一万一、五〇〇フィートの上空には右のような有視界飛行に影響を及ぼすような気象状況は存在しないことを知っていたこと、川畑は本件事故当時、夜間飛行及び計器飛行をした経験がほとんどなく、特に雲の中を飛行した経験は全くなかったことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実に照らし考えてみると、川畑らに対し飛行訓練を指導していたカーベリーとしては、飛行機が飛行経路上の山に衝突し、あるいは厚い雲の中に入って有視界飛行が困難となる恐れのある海抜三、〇〇〇ないし五、〇〇〇フィートの高度での飛行は避け、右衝突の危険がなく、かつ、有視界飛行に影響を及ぼすような気象状況の存在しなかった海抜一万一、五〇〇フィートの高度での飛行をするよう指示し、あるいは、川畑による操縦を早めに中止させて自ら操従することにより、本件飛行機とそれらの山との衝突を未然に防止すべき注意義務があったというべきである。

しかるに、《証拠省略》によれば、カーベリーは本件飛行開始前に飲酒して正常な注意力及び判断力を欠いた状態で本件飛行に臨み、川畑の予め提出した飛行計画が海抜一万一、五〇〇フィートの高度によるものであったにもかかわらず飛行開始後突如海抜約四、五〇〇フィートの高度で飛行するよう指示し、しかも川畑から自己への操縦交替を適時にしなかったため本件事故を惹起したことが認められるから、カーベリーには本件事故発生について過失があったものというべきである。

(二)  《証拠省略》によれば、被告学園は学生に事業用操縦士技能証明を取得させることを目的として操縦大学校を経営し、被告大洋航空はそのための航空機の運行を被告学園から請負っていたこと、本件留学は被告学園の右事業目的である事業用操縦士技能証明取得に必要な飛行時間獲得のために実施されたこと、セキュリティー航空学校は被告らから学生の飛行訓練を委託されていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

従って、被告らは、等の操縦大学校入学により、同人に対する飛行訓練の実施に際し同人の生命等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っていたもので、セキュリティ航空学校及びカーベリーは右安全配慮義務の広義の履行補助者であったというべきである(なお、被告らがセキュリティー航空学校及びカーベリーに対し指揮命令権を有していたことを認めるに足りる証拠はなく、同人らが被告らの被用者であったということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の使用者責任の主張は理由がない。)。

(三)  なお、原告らは、本件飛行機に搭乗した等を含む学生らは、いずれも英語を殆ど話すことができず、他方、カーベリーは日本語を解すことができなかったのであるから、通訳を同乗させる必要があった旨主張するが、《証拠省略》によれば、本件留学には右学生らに飛行に必要な英語力を修得させる目的もあり(日本においても航空管制業務が英語によって行われていることは公知の事実である。)、また、右学生らは、本件留学開始後約一か月間ペニンスラ航空学校及びセキュリティー航空学校において特段の支障なく飛行訓練を受け飛行機の運行に最低限度必要な基本的専門用語は理解していたこと及びカーベリーは本件事故の数秒前には本件飛行機の操縦を交替していたことがそれぞれ認められるのであるから、通訳を同乗させなかった一事をもって、安全配慮義務に欠けることがあったとは言い難い。

5  請求原因5の事実を認めるに足りる証拠はない。

二  抗弁1について

1  《証拠省略》によると、セキュリティー航空学校における飛行訓練中、学生らの引率者島森は、同校に対し、学生個々の飛行時間を一定程度確保するよう要請したものの、その他には同校の訓練飛行につき何ら指示をせず、訓練飛行については専ら同校の教官が飛行日程を決定し、学生を指揮して飛行を実施する等独立して遂行していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

従って、右認定事実と前記一、4、(二)で認定した事実を総合して判断するとセキュリティー航空学校は被告らにとって、狭義の履行補助者の域を超え、いわゆる履行代行者としての地位にあったものというべきである。

また、《証拠省略》によれば、等及び原告らは、被告らが等の米国留学中、右履行代行者を使用することを承諾していたものと認められる。

よって、本件の場合、被告らは、訓練飛行自体については前記セキュリティー航空学校の被用者であるカーベリー自身の過失につき直ちに責任を負わず、単に履行代行者たる同校の選任監督につき過失のあった場合にのみ責任を負うものというべきである。

2  《証拠省略》によれば、セキュリティー航空学校は被告らが本件留学先として候補に挙げた数校の一つで、米国航空局の認可を受けた学校であり(右認可を受けたとの点は当事者間に争いがない。)、教官は同航空局から派遣され、その設備、航空機等も格別欠陥のなかったこと、本件留学の目的は、事業用操縦士技能証明申請資格取得に必要な機長時間の獲得にあったところ、被告らが当初留学先としたペニンスラ航空学校では英語による管制官との交信ができなかった等らに対し機長時間を認めなかったため、被告らとしては、英語による交信ができなくても機長時間を認めていたセキュリティー航空学校に留学先を変更する必要があったこと、カーベリーは、本件事故当時、その飛行時間が約五、〇〇〇時間に達し、ノースウエスト航空株式会社の訓練教官を勤めた経歴を有し、事業用操縦士、教育証明、計器飛行証明の有資格者であったことが認められ(る。)《証拠判断省略》

3  右認定の事実によれば、被告らが、セキュリティー航空学校を等に対する訓練飛行中の安全配慮義務の履行代行者に選任したことには過失がなかったものというべきである。

したがって、原告の安全配慮義務違反の主張はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三  よって、原告らの本訴請求は、その余の抗弁について判断するまでもなく、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 定塚孝司 裁判官 高田泰治 矢尾渉)

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